| WTO加盟後の生産分業を見通す 〜中国生産10年を迎え〜 《極東電気株式会社 専務取締役 加納 勲 氏に聞く》 |
| IBOは、安全ブレーカー、漏電遮断器、漏電プラグ、漏電リレ−等、多様な電気機器を製造販売している旭東電気株式会社(本社:大阪市旭区、従業員167名)専務取締役 加納勲氏に中国ビジネスについて話を伺った。 同社は、1990年代当初から中国での生産活動に着手し、1994年には中国広東省に合弁会社を設立した。同氏は、1994年8月から1997年7月までの3年間現地に駐在し、現地工場での生産を軌道に乗せるなど重要な役割を果した。現在は本社から中国の動向を常にウォッチし、WTO加盟後の中国をにらんで一層のビジネスの展開を考えておられる。同氏にこれまでの苦労話と今後の抱負を語っていただいた。 中国進出から現在に至るまで 中国進出への直接のきっかけは、製造コストの削減であった。取引先からの要望を肌で実感し、また当時はグローバル化が非常にもてはやされていた時でもあった。日本国内では課題解決は困難という判断から、労働コストの低い中国に注目したのである。 中国への進出は、広東省広州市にある日系大手電子部品メーカーの工場の一部を借用して委託生産(1992年5月開始)を行うことから始まった。通訳1名、従業員30名、工場面積300m3からスタートし、1996年12月に閉鎖するまでの間に、ピーク時には220名の従業員を抱えるまでに至った。 委託生産を続ける一方で、本格的な生産拠点探しも始めた。中国国内を、大連から上海、広州へと幅広い調査を行ったが、結局、さまざまな面で当社の戦略に適した広東省広州市に決定した。第一に、産業インフラの一番進んだ地域である、第二に、中国南部地域の特徴として、香港に非常に近く(フェリ−で1時間)情報が豊富なことや、日本を経由せずに東南アジアへ輸出可能である(価格競争力)−からである。北部の大連市等は、広東省に比べて、安価な土地と建物を確保するための労力が必要である場合が多いのを付言したい。 物件探しと同時に、パートナー探しも並行して行った。今は外国企業が設立した独資会社であっても販売活動は可能であるが、当時は合弁でなければできなかった。合弁会社の出資比率に応じて、市場開放の度合いが決まる政策がとられていた。パートナーは同市工業会会員企業から選定した。出資比率は当社が全体の75%、相手側が25%であった。形式的には合弁会社であるが、契約締結の際、出資比率とともに日本側主導の経営スタイルと日本的管理手法の採用を確保することで、実質的には独資会社に近い形をとった。そして1994年10月、操業を開始した。 中国滞在の3年間で、従業員800名を雇用するまでの規模に拡大、現在は約1,500名が勤務し、今年工場を新たに増設するまでに至った。現地工場では、基板実装、プレス加工、成形加工を行っている。 生産品は、自社商品として40%を内外に販売、30%は日系企業の委託加工としてお客様の仕向地に輸出、残り30%は現地日系企業(香港を含む)に販売しており、中国第一の家電メーカーであるハイアル社等にも納めている。 今後の展開 今注目しているのは、「中国のヘソ」といわれる上海である。香港は、返還後50年は現体制を保持することが決定しているが、上海も、どんどん香港化している。現在、当社は製品を香港経由で上海市・蘇州市等に海上輸送しているが、上海に生産拠点を設ければ、より顧客(上海の人口1,000万)の近くでビジネスを行うことで、輸送コストの削減とサ−ビスの強化が図れると考えている。 当社の将来像は、上海工場の設置などで中国生産を一層強化していきたい。そのために現地に開発研究部門を設置し、人材の育成を急ぐことを念頭に入れている。 また、今後両国の生産・販売区分も一層明確にしたい。日本においては、多品種少量生産で高価格品への特化を目指し、中国では労働集約型による安定した製品作りを徹底していきたいと考えている。 中国ビジネスの鍵 以下に、中国でビジネスを行う上で鍵となる項目についてそれぞれ述べてみたい。 (1)独資会社 中国でビジネスを開始するには独資が一般的である。今工場を設立するなら、当社も独資の形態をとっていただろう。生産品目から、組織形態、工場の建物とその内装等に至るまで、中国側の経営者(文化革命以前の人)と相談や議論で事業の進展が遅れることがよくある。無駄な時間を最小限にし、現地駐在者のストレスを取除いておきたい。 中国は共産主義社会であり、日本とは状況が違うということを認識する必要がある。しかし、最近多くの中国人学生が日本や欧米に留学しており、彼らが中国国内で活躍しているため状況が少し変化してきている。こういった人材は戦力になることが多い。 経営を中国側に任せると中国式経営(改革前の国営企業)になり、それでは進出の意味が無くなる。 失敗しないためには、自社が持っているノウハウをそのまま中国に持って行き、若い中国人経営者を育成することも、極めて重要な課題である。 (2)根付き 「中国へ進出して、儲からなかったら日本に帰る」という姿勢では到底ビジネスは成功しない。また中国市場で販売するライセンスを取得するには、現地のヒト・モノ・カネ・情報を活用する「現地化」が求められる。当社の最終目標は、中国人による委託加工と現地販売である。中国でビジネスを成功させるためには、中国を学び、理解し、納得のいくまで調査する。いろいろ知れば何が欠けているのか見えてくる。またそれと同時に、日本に欠けているものも見えてくる。中国に無いものは、資金と技術であり、日本に無いものは価格競争力である。中国の基礎技術力は発展途上の状況にあり、現状では日本のそれより20年も30年も遅れているといわれている。それぞれの国の特性を十分に生かしてこそ成功するのである。 (3)人を創る 優秀な中国人従業員や幹部を育成することは重要である。当社の採用基準は、従業員については、職歴が無い地方出身者で、極めて純粋な青年達である。よく中国人は個人主義者であると言われるが、実際に彼らと接して見ると、そういったことはあまり感じられない。 当社では、運動会や文化祭を年1回行っているが、彼らはとても熱心である。多くは20歳前後の女性達であるが、同年代の日本人の女性では考えられないほど一生懸命である。また既成概念が無いため、新しい取り組みにも素直に適応し、積極的かつ熱心に対応する。彼らは目もいいし、素直で、そして若い(日本の従業員は平均年齢が55歳)。中国の従業員は世界一だと思う。 当社の「人造り」は、離職率が低いことからもわかる。離職率は毎月データー化されている。退職理由、男女別、部門別、出身地別、在職年数、過去の成績評価、事前届けの有り無し等を分析することで、今後の対策を立てている。なお、当社の離職率は、月1.6%程度である。主要都市の失業率は10%、農村地域では30%程度と聞いており、人材は豊富である。また、韓国や台湾は発展とともに賃金が上昇したが、中国ではまだそういった現象は見受けられない。 (4)面倒がらずに、さまざまな制度を活用する 中小企業が海外に進出する際、政府関係機関によるさまざまな援助制度を知らない方が多いように思われる。財団法人海外職業訓練協会(OVTA:http://www.ovta.or.jp)では、外国人に技術を教えるための派遣に渡航費等の援助を行ってくれる。財団法人海外貿易開発協会(JODC:http://www.jodc.or.jp)では、海外で事業を行う中小企業に対して海外投資資金や輸入促進のために資金を融資する制度がある。 こういった制度を利用することで、スムーズに海外事業を展開できるので活用されることをお勧めする。 (5)合弁会社の利点 中国ビジネスは独資の形態を勧めるが、合弁会社にもメリットはある。合弁なら相手側の土地と建物が利用できる。投資の対象として土地・建物を考える企業があるが、その考えには賛同し難い。中国の建物は日本と違い、窓のサッシや壁などは1年もたたないうちに錆び、汚れが目立つ。日本の感覚で3年経ったら、中国では10年または20年経っていると考えたほうがよい。電気・ガス・水道の配管設備等も推して知るべしである。 投資をするなら、最新型の機械を購入し、中国で活用するほうが余程効果がある。また中古の日本機械でも十分対応可能である。 現地事情に精通することによる治安、安全の確保も上げられる。多くの若い女性従業員を抱える当社にとって非常に重要であり、また通関業務や会社設立のノウハウを学ぶ点においても非常に効果的である。 ただし合弁企業を選択する際、同業他社は避けたほうがいい。企業固有の機能、品質管理等のノウハウをそのまま他で活用される可能性が高いからで、合弁の利点を考えれば、必ずしも同業種である必要はない。 最後に 中国の発展は、日本産業の空洞化を促進し経済的地位を奪う、と考えている方も多いだろう。しかし当社はそう考えていない。中国の経済力が上昇すると、国民の購買力が上昇し、品質のいい日本製品を購入することが大いに考えられる。現在、日本の輸出先はアメリカが1位であるが、将来的には中国がその地位を奪うだろう。 当社の安全ブレーカー等、配線用遮断器等の中には、国内シェア10%だったものが、中国生産に切り替えた後、30%〜70%にまで上昇したものもある。これは、低価格に加え、品質が良くなった「Made in China」への抵抗が少なくなったのも大きな要因と考えられる。取引先の中には、当社の中国製品を受け入れない企業もあるが、受け入れ企業が80%あれば、残り20%の企業とは取引がなくても、中国進出へのメリットの方が大きいのである。このブーメラン効果を十分活用すべきである。また、WTOへの加盟により、中国側の知的財産権に対する考え方が大きく変わっていくだろう。これまでは財産権についての意識が非常に希薄であった。進出の際、心がけたことは、所有する技術またはノウハウを守ることで、いくら契約書に財産権の保障を明記したとしても、その効力は非常に乏しい。 ある日本企業の例では、3,000件にも及ぶ財産権補償に係る裁判の結果、その内の1割、300件については勝訴したが、弁償してくれた会社は1社もなかったという。こういった状況は、WTO加盟で改善されてくるだろう。 中国でのビジネスに失敗する企業は多い。当社は、中国にあり日本に欠けている点と、日本にあり中国に欠けている点を充分理解して、これまでビジネスを行ってきた。こういった姿勢が非常に大切だと思う。 インタビューを終えて 加納氏は、自身の経験についてさまざまな場所で講演され、機関紙等への投稿も行っておられるだけに、話は非常に興味深く、あっという間の2時間であった。インタビューの途中、加納氏は大きな字で「清明上河図」と書かれた、幅53センチ、長さ13mの掛け軸を見せてくださった。それには中国の昔の風景が描かれており、同氏のお気に入りだそうだ。この掛け軸の購入値段を引き合いに出し、熱心に中国と日本の価格差について語ってくださる姿を見て、とても中国のことを愛している人であると感じた。 《極東電気株式会社 専務取締役 加納 勲 氏に聞く》 |