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違いを感じたあの瞬間
〜上海での生活〜
上海事務所 次長 堅田進一
 
 駐在生活も早や3年。経験面において後悔の残る部分もあるが、飛行機でわずか2 時間の距離にある上海で体験したことを総じて一言でいえばやはり「外国である」に尽きる。近くて遠い国中国で生活上の印象的な事象が多くあった。中にはやっぱり人間同士だな、と感動、感銘を受けたことも枚挙に暇がないが、違和感を持った幾つかのエピソードをお伝えする。

 街で−中国を訪れた日本人でまず面食らうのは交通事情だろう。といって交通ルール自体はほとんど日本と変わらない。典型的な相違点はヒト、クルマ共に右側通行であるという点ぐらいのものだが、それよりも日本人が戸惑うのは、ヒトは信号やルールに沿わず、クルマ同士もまた十分に法規や慣習に沿っていないことにある。相撲で言うと、ヒトとクルマの呼吸が微妙に合わない。緊張しているのは日本人ばかり。中国人は小さい頃からこの環境で育まれ馴染んできたので何時でも何処でもヒトは横断し、クルマは自在に疾走する。頼もしいというかなんというか…。

 買い物−今では百貨店やスーパーが内外から上海に進出し、顧客獲得と販売合戦にしのぎを削っているが、人々の生活の基本は自由市場などで生活物資を買って用を足す。これらは観光地の土産物屋とも同様の感覚だが、売り手の言い値で買うヒトはいない。必ず値段交渉が必要である。最近では日本人も駆け引きがうまくなったがこれは中国人が一枚上手。少し前までは言い値半掛け、が成功と言われ、例えば100元は50元まで下がれば、買い手は満足していた。しかし売り手もそれを見越して3倍程度の値を提示してくる。蘇州で土産物を買おうとしたとき、最終的に4分の1まで下がったことがある。きりがない。

 乗り物−タクシー、バスなどに乗ろうとする時には油断していると長時間その場を動けなくなる。周りの人々は自らが乗りたいときに乗りたいように我先に乗り物に乗るからだ。まるで扉を先に取ったほうが勝ち!みたいなところがある。エレベータでもしかり、乗るヒトは降りるヒトを待ってはくれない。旧正月などヒトが多くてクルマが少ないときは中央分離帯にまでクルマ争奪合戦が繰り広げられ、ひどいときには走行中のクルマに立ちはだかるようにして止めようとしている。とにかく周りの状況に臆することが少ないので閉口する。

 食べ方−食事に対する執着も違う。中華料理の品数と量の多さ、食材の豊富さには圧倒される。なかにはここまでして食べなくともいいのでは、と思うものもある。スイカやひまわりのタネをはじめ日本ではめっきり少なくなったザクロ、さとうきびなども直接食べるのは驚かされる。上海市内では昔の洗濯機の脱水ローラーみたいなもの(知っているヒトが少なくなった)で「さとうきび水」を作って売っている。ローラーが懐かしい。
 また箸の文化は日中共通だがその使用回数に差が出る。上海蟹は有名な旬の料理だが、日本人が箸を使って身を取り出そうとするのに対し、中国人は手と口先を使って殻を割り、身を食べる。大抵の箸は先が細くないため箸で取り出すのは無理だし蟹自体が小振りであるという事情もあるが、他の食べ物、例えば海老でも骨付きから揚げでもすっぽんでも同様の特徴が出ておもしろい。そのため中国ではテーブルの位置がやや高い。口から吐き出すのに高いほうが便利だから?

 コミュニケーション−中国人が二人いると必ずしゃべっている。しゃべっていないヒトがいるとそれは一人でいるヒトと思って差し支えないこれはちょっとオーバー)。
 タクシーに乗っている中国人はほとんどが前列の助手席に座る。これに気づく日本人も多い。何故わざわざ危険な助手席に陣取るのか、中国人に尋ねるとこれはコミュニケーションを大切にするためだという。つまり後部座席で黙って座ることをせず前席でドライバーと会話することが楽しくもありまた大切だというのだ。ん?ちょっと待って!では二人がタクシーに乗り込んだとき、前後に分かれて一人ずつ座るのは何故ですか?これは不思議じゃないですか。

 パジャマ?−外資系のスーパーが活況を呈している。これに負けじと地元資本のスーパーも健闘している。しかしここでも奇妙な光景を目にする。明らかにパジャマ姿で買い物をしているヒトを見かけるのである。パジャマ姿というのは表通りから少し入った生活道路で、特に夏の夕暮れ時にはむしろほほえましい姿に写るが、家族連れでしかもスーパーの至る所で品定めをしているパジャマ姿はいただけない。だが当の本人達や周辺の買い物客も平然として…、あまりの自然な振る舞いにひょっとしてみんなの目には映っていないのか、いや夢か現か幻か−と、我が目を疑ってしまう。

 家の中で−緯度が鹿児島あたりになる上海はそれでも大陸から来る偏西風の影響からか気候は大阪と大差ない。夏は家の外に出て涼を求めることも多いが、冬になると屋内では大なり小なり暖房が必要である。ところがこの上海あたりの華東地域では意外と暖を取らない家庭が多いようである。というのも知り合いの家庭を訪れたとき、事前にアポを取っておいたにもかかわらず、ご夫婦共々ダウンコートをきちっと着ておられたので急用でもできたのかと恐縮した。「あ、お出掛けですか?」「いいえ、どうして?」「いや、その…」かように家の中でも重ね着などをして極力エネルギーを節約するという省エネルギー型の考えが根底にあるのには真に敬服させられる??

 自己主張−これは聞いた話だが、また冬の出来事。タクシーに乗って(日本人はほとんど後部座席に座るが)運転手さんに、寒いから前の窓を閉めてくれと頼んだそうである。というのは、上海周辺のタクシーはなぜか運転席、助手席とも窓を少しだけ開けて走る。冬だから当然風が入ってきて寒い。後部座席ではなおのこと。で、この運転手の言い分が驚く。「窓を閉めると中が暖かくなって私が眠くなり危険だ。あなたが寒いのと私が眠くなるのとではどっちを取る?」え?何ですって?

 昨年の春あたりから中国では日系企業をはじめ外資企業の投資件数が増えてきている。また日本では中国人の日本向けビザの一部解禁に伴い、今後多くの中国からの観光客が見込まれ、観光産業の活性化が期待されている。だが実際の日中両国の公的関係はこれらの動向とはパラレルにリンクしていないように思える。
 わが国の景気の現状からどうしても経済面だけに目が奪われがちであるが、結局互いの文化への理解があらゆる事象の基本になるのではないだろうか。日本人と中国人は外観が似て文化のルーツが共通であるという認識から、一見両者の友好関係は簡単なようで、しかし相互理解は相当難しい。
 今まで述べた経験は生活上の些細な実体験だが、これでも両者が随分異なっていることを垣間見ることができる。互いの習慣、文化、思想、歴史的背景などを正確に把握、理解した上で必要以上の配慮をせず冷静に自らの要求を伝える。ビジネス上での基本をこのあたりにおいて積極的な経済活動を展開したいものである。ヘッセン州経済開発信託公社(IBH)日本代表事務所
代表 田村南榮
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(上海事務所 次長 堅田進一)