驚異の経営革新
2000年11月27日号の日経ビジネスは、「中国は世界の工場」と題する中国特集を組んだ。「驚異の経営革新、ついに結実―10年前の真実はもはや迷信になった」というくだりでは日本人が感じる3 つの迷信にふれている。すなわち、「企業は国有、経営者は政府の官僚である」、「社会主義の悪平等で働く意欲が非常に低い」、「政府の指示でしか動かない前近代的な経営である」−この記事に、侃侃諤諤、上海在住の駐在員や出張者の間で大きな話題を呼んだ。
「社会主義市場経済」の推進という政策目標のもと、1990年代の中国は、国有企業改革と外資系企業の誘致をてこに驚異的な経済成長を遂げてきた。香港、台湾をはじめ在外中国人による証券金融投資や直接投資、欧・米・日からの貿易拡大や直接投資を誘致する一方、国有企業の改革を進めつつ、近年の欧米流のビジネス感覚を有した民間企業の成長を促進し、記事に紹介されたような新興成長企業が誕生している。また、その一方で、行政改革、開放路線の本格化やWTO(世界貿易機関)への加盟を目標としたグローバルスタンダード(世界に通用する政策、契約法制度、取引慣行・商業道徳など)化の動きも急速で、3 つの迷信に示されている状況は、依然一部に残るものの、迷信化しつつあるのが実状であり、着実に課題が解決されている。
上海市−第10次5カ年計画(2001年〜2005年)下の国際経済政策
WTO加盟や「フォーチュン500社」(アメリカのフォーチュン誌が毎年行っている会社の格付け)を目標として、社会主義国特有の高度な政策誘導のもとに、行政も民間も一丸となって行動している姿はわが国の高度成長時期を彷彿させるものがある。しかし、世界の投資家をひきつけるには、現実的な意味での市場の魅力が不可欠である。潜在的な市場の成長率、質の高い労働力、道路・港湾・通信網などのハードインフラ整備に加え、法制度や政策の透明性・安定性などのソフトインフラの整備が必要である。こうした意味で、上海を中心とする華東地区はそうした要素を有し、他地域に比べ成長率が高いのも納得できる。
第9次5カ年計画(1996年から2000年)期間中の上海経済は、都市のインフラ整備を推進する一方、技術革新、対外開放を進め、経済は良好で驚異的なパーフォーマンスを示した。1992年から9年間連続で10%以上の成長を遂げ、2000年のGDP(域内総生産)は4,551億元(1元=約14円)に達し、一人あたりのGDPは4,180US ドルで、香港、マカオを別として初めて4,000USドルを超え、中進国並みの水準に達した。とりわけ、2000年は、工業生産で13.5%増の6,915億元、小売額で実質12.3%増の1,722億元、上海港の貿易額で前年比43.5%増の1,093億1,100万元、財政収入で24.6%増の1,141億6,000万元となるなど、各指数で良好な伸びを示した。
また、第3次サービス業がGDPの50.1%と、全国で初めて50%を超えるなど、上海市の都市部は、金融・貿易・保険などのサービス産業都市として成長し、上海市の郊外及び江蘇省、逝江省の外延部に広がる工業地帯を包含する大産業都市として発展している。2000年の上海市の経済成長率は10.8%と9年連続で二桁の伸びをみせ、経済成長への第3 次産業の寄与率は57.3%と成長率を6.2ポイント押し上げた。とりわけ、金融保険業は前年比18.1%増、全市のGDP15.2%を占め、第3次産業のトップとなった。
上海市の第10次5カ年計画の方針
上海市蒋以任副市長は、各国領事館、外国経済団体、外資系企業を対象とした「対外経済貿易情況説明会」(1月12日開催)で、以下のように、第10次5カ年計画の方針を述べた。
1.一つの龍頭、3つのセンター建設の貫徹
第10次5カ年計画期間は、上海市の都市機能を発展させる重要な時期であり、市場機能の効率化、環境の良化、産業のエネルギー効率の高度化を進めるとともに、浦東地区を長江地域の龍頭として発展させる。国際経済、金融、貿易の3つの中心(センター)都市として、全国や世界経済に大きな影響力を保有する。情報化、市場化、法治化を進め、現代の国際都市にふさわしい水準に高める。
2.都市の総合競争力強化の貫徹
情報、金融、商業貿易、自動車、石油化学精製、不動産業を新たな6大支柱産業とし、特に自動車の次に発展させる情報産業をさらに加速度的に発展させる。また、生物医薬、新材料、環境保護、現代物流の四大新興産業を今後の産業として育てて行く。
3.改革、発展、安定的な指導方針の貫徹
国民経済の健全で持続的な発展を継続させる。経済体制を根本的に改革し、産業の連関機能を高める。さらに一歩、全面的な対内対外開放を行う。
また、2001年における上海市の対外経済貿易政策の重点は、1.国有貿易企業改革/2.港湾・通関機能の充実3.大型外資企業の誘致4.上海市企業の海外進出促進−の4つの政策である(朱暁明対外経済貿易委員会主任)。ここで注目すべきは、海外進出の促進が4 つの柱の一つにあることである。上海市政府は、昨年12月、外資系企業誘致のための「上海市外国投資促進センター」(1999年12月開設)に加え、「上海市対外投資促進センター」を設置し、独立したビルの2フロアーに両センターをオープンさ
せるとともに、本年2月には、大阪を含め、米国カリフォルニア州にも海外事務所を設置した。今回、同上の説明会で「今、最も重要な人」と紹介された、上海市外国投資工作委員会副主任の劉錦屏氏にインタビューする機会を得たので紹介させていただく。
草薙:劉副主任は昨年のG−BOCや2月の上海市経済セミナーでの来阪など、大阪ともなじみの深い方です。本日は、内外の要人との面談が多い中、IBONEWS のインタビューに応じていただきましてありがとうございます。
劉氏は、政府の外国投資工作委員会副主任であるとともに、「上海市外国投資促進センター」「上海市対外投資促進センター」の副主任でもいらっしゃいます。
まず、政府の立場から、2000年の上海への外資投資の状況についてお伺いします。
劉氏:2000年の外資による投資は大幅に増加し、契約ベースでのプロジェクト件数は1,814 件(前年比23.2 %増)、契約金額は63億9,000万USドル(前年比55.7%増)となり、うち1,000万ドル以上の大型投資が43億2,500万US ドルで全体の67.7%となっています。なお、実行ベースでは31億6.000万US ドル(前年比3.7%増)です。
2000年末現在、投資許可件数は22,270件、契約ベースの投資額は454億2,300 万USドル、実行ベースの投資額は308億8,900万USドル、投資国は91カ国です。投資形態は、許可件数では、合資が11,100件(構成比49.4%)、合作が4,340件(同19.5%)、独資が6,789件(同30.5%)、契約金額では、合資197億7,000万USドル(同64%)、合作が86億9,000万USドル(同19.1%)、独資が152億4,700万USドル(同33.6 %)となっています。
草薙:2000年の外資投資の特徴はいかがですか?
劉氏:2000年の外資による投資の特色は4点あります。一つは、アジア諸国からの投資が増加していること。とりわけ、日本からの投資が2倍以上に増加し、香港を除くと第一位となりました(1999年の第一位はアメリカで日本は二番目)。日本が7億500万USドル、アメリカが5億8,000万USドル、ドイツが4億8,000万USドルです。第2に、投資のうち、製造業が931件(全体の51.7%)、48億USドル(同75%)を占め、依然製造業が重点を占めています。第3に、実行ベースの投資のうち、約36%(22億9,000万USドル)が増資によるものです。これは、上海市の政策に対する信頼の表れでしょう。最後に、大部分の企業経営は順調にいっており、利益と輸出額は増加しました。11月までの統計では、経常利益は73億7,000万元(前年比12.9%増)、納税額は134億元(前年比8.1%増)となっています。外資系企業からの税収は、上海市税の3分の1を占めています。
投資額は下半期に急増しており、その増加の要因として、1.WTO加盟についてアメリカとの協議が成立したこと2.アジア諸国がアジア通貨危機から脱出し、投資意欲がでてきたこと3.12月に2つのIT 産業の大型契約(18億USドル)が成立したことです。
草薙:中国は近々WTOに加盟されると思いますが、どのような準備をされていますか?
劉氏:WTOへの加盟に備えるため、現在施行されている法律をWTO基準にあわせるため、改正の作業を行っています。第2には投資環境の整備、特に、ソフト面です。公正な法律体系として、手続きの簡素化、事務処理の効率化を図ります。また、知的所有権の保護に対する政策を進め、偽造商品を撲滅します。
草薙:企業のなかには、上海は土地・給与の上昇に加え、WTO加盟後、現在実施されている優遇制度がなくなるのではないかとの危惧の声がでていますが…。
劉氏:政策は必要に応じて変更するものです。難しい問題なので、個人的な見解も入りますが、WTO加盟後は、1.政府の政策として、法律の透明度を高め、政策の連続性を図ります。部品の国内調達率や国内販売の基準を撤廃したり、申請の手続きを簡素化する2.外資系企業の投資領域を拡大し、サービスや貿易の領域を開放する3.多国籍企業の誘致と企業間の合併、企業買収を認める4.外資系企業に内国民待遇を与える−ことです。
上海での事業にあたって、給与や土地代など高価な面がありますが、それに見合うだけのインフラの整備や政策の透明性など上海の有利性は高いと考えます。研究開発の場合、日本の3分の1で済みます。それに見合わない企業は上海以外で操業すればよいのではないでしょうか。
草薙:昨年、上海市外国投資促進センター及び上海市対外投資促進センターをオープンされましたが、その内容を紹介してください。
劉氏:上海の外資投資政策は新たな時代を迎えており、国際的に通用するルールに従って、適切なパートナーの紹介や発生する様々な問題の解決へのアドバイスを行います。
上海市外国投資促進センターは、外国に上海を紹介するとともに、外資投資のガイダンスを行います。関連情報の収集と国際的な資本の流れと上海市の外資投資促進戦略を研究し、市政府へ提言し、また、上海市対外投資促進センターは、海外の投資環境の情報収集や進出へのアドバイスを行う機関です。両センターは、政府と投資者との公式の連絡機関(効率的で中間的なコンサルティング機関)で、対外経済委員会以外の部局や上海市内の各区・各県の対外経済貿易委員会の責任者がセンターの顧問になるなど、ワンストップ(1カ所)で相談に応じています。
草薙:上海市外国投資促進センターは、大阪の企業が直接相談することは可能でしょうか?
劉氏:もちろん結構です。業種や企業規模に係わりなく、遠慮は無用です。半官半民の組織なので、相談料は無料です。大企業は調査や情報収集能力があるので、センターは中小企業の方々にメリットがあるでしょう。
草薙:中央政府でも、「海外に投資して工場をつくることは西部大開発と同様にわが国の発展と前途に関わる重要な戦略」と、重視されていますが、アフリカや中近東など発展途上国が多いようです。大阪府、IBOでは、外国企業の大阪での起業化について、ビジネスから生活まで支援させていただいています。数多くの企業に進出していただきたいと思います。
劉氏:上海市対外投資促進センターは、上海の企業を海外に進出させ、国際競争力を高めるために設立しました。現在、海外には540社、10億USドルの投資がなされています。業種別には、約60%が製造業で、進出地域はアフリカなど発展途上国が多く、日本やアメリカはサービス業が中心です。今後、毎年100社程度が海外進出できることを期待しています。しかし、海外進出するか否かはあくまでも、企業の意思によるものです。
両センターとIBOとは、公益性ある団体で、団体の性格や事業内容がよく似通っており、共同で事業ができるでしょう。両センターとIBOが、上海と大阪の企業の発展を促進するため、今後とも連携を図ります。
2000年には日本からの投資が拡大しており、上海市にとって日本は最重点地域の一つです。本年2月16日に外国投資センター日本事務所を開設し、投資セミナーを開催するために初めてのミッション団を日本に派遣したのもそのためです。今後とも、両地の企業が発展できるよう、IBOと連携を高めていきたいと思っています。
(上海事務所長 所長 草薙 勝之)
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