戻る

IBOニュース 平成11年7月号(No.97)    その1

 マイカー時代の到来はいつ〜中国自動車産業の行方〜

上海事務所  所長  福島勝彦

  1998年12月、アメリカゼネラルモーターズ(GM)社と上海汽車との合弁企業上海通用汽車有限公司が浦東地区で建設を進めていた工場が落成、今年4月から生産を開始し、高級乗用車「ビュイックニューセンチェリー」の販売を6月から始めることになった。GMの進出により、日米独のトップ企業が中国に顔を揃えた。中国の人々の生活水準が向上する中、マイカー時代が到来しつつある。中国自動車産業について見証してみたい。

 はじめに

 中国の乗用車の歴史を振り返ると、旧ソ連の援助によって設立された長春第一汽車(自動車の意)が1958年に最初の国産乗用車「東風」を、その後「紅旗」を生産したのがはじまりである。それまでトラック生産一辺倒であった中国自動車界にようやく乗用車が登場したのである。少し遅れて上海でも小型車「上海」の制さんが開始され、政府や国有企業で公用車として使用されるようになった。1998年中国の自動車市場の規模は160万台(販売台数、輸入車除く)、そのうち乗用車は30万台程度。残りほとんどがダンプ、トラック、バスなどの商用車である。これまでの外国メーカーによる対中合作プロジェクトはいずれも商用車部門を対象とした技術提携止まりが多かった。

  中国の完成車メーカーは「上海大衆」のように外資導入で本格生産を行う工場から一日数台の生産を行う小規模工場まで全国に120社程ある。これらの企業により1998年生産された自動車が約160万台、うち乗用車が45万台であるが、この数は比較的モータリーゼーションの進んだ韓国とほぼ同数で、タイ、インドネシアなどアジア各国の30万〜50万台と比較すると中国の市場規模の大きさを理解することができる。

  1980年代後半から1900年代前半にかけて市場経済で自信をつけた中国は、自動車産業を国の基幹産業ととらえ、外資の導入による乗用車の国産化戦略を展開することとなる。大型企業、基幹企業を育成するために乗用車生産を主力8社に集約化する「三大三小二徴」政策が打ち出された。「大」は年産能力30万台、「小」は同15万台、「微」は軽自動車生産を指す。このうち「小」の範ちゅうでは、天津シャレードがダイハツからトヨタへ、広州プジョーが本田アコードに合弁相手を最近になって変更している。なお「二微」では、技術供与で部品製造を手掛ける富士重工が合弁の認可を申請中、スズキは最近増資を行い年産15万台体制を整え、中央政府の認可を取得した。

自動車生産の新しい流れ

  1994年7月、中国政府は、今世紀中に自動車産業の基礎を固め、2010年には、国家経済の基幹産業とするための提言「自動車産業政策」を発表した。これは来るべきマイカー時代到来と見据え、1980年代の乱立気味に進出した下位メーカーの認可プロジェクトの見直しを図る自動車政策である。資金調達能力、技術開発能力、国際販売ルートを有する大型企業を求めるとともに、合弁比率も中国側が50%以上と外資に対してマイノリティ参加を義務づけた。この政策により下記企業が新たに認可された。

●GM(米、上海) ●クライスラー・ベンツ(独、海南) ●トヨタ(日、天津)

●本田(日、広州) ●フォード(米、南京)

 

  日米独のトップ企業が中国大陸に顔を揃えたところで自動車産業第9次5カ年計画が策定された。自動車業界に対する投資環境整備、完成車プロジェクトにおける国産化率40%枠の規制、部品産業の強化策、税の還付による輸出振興策など自動車産業をあらゆる角度から支援し、基幹産業として育成する具体策が次々と打ち出された。さらに、WTO加盟を急ぐ中国では、海外メーカーに対抗するため、自動車業界再編の速度を速め、大型自動車企業グループ3社(第一汽車、東風汽車、上海汽車)の他、基幹自動車メーカーを10社(予定)に再編する方針を打出した。政府主導のよる中国自動車業界の再編は、いよいよ最終段階を迎えたようだ。

 

マイカー時代は来るか

  現在、世界では保有される自動車は4台にうち3台が乗用車で、このうち2.5台がマイカーであるといわれている。世界の自動車産業の発展は乗用車の発展であり、マイカーにより乗用車市場は巨大化した。中国にも果たしてマイカー時代が到来し、乗用車が街に溢れるのだろうか。国家機械工業部によると国際競争力を確立などを主眼とする自動車産業政策の強化による影響と公用車利用規定の厳格化などにより、経済成長にかつてほどの勢いがない中とはいえ、乗用車は民間需要を中心に消費者が急速に高まり、1999年は54万台の規模に膨れ上ると見られている。

  今年のビュイックニューセンチュリーの生産計画は計2万台。GMでは購買層は全体の40%が合弁企業、30%が私営企業、20%が政府機関、国有大企業で残り10%が個人購入と予測している。最近、中国では沿海部における一部市民の収入の伸びや自動車ローンの整備、さらに自動車購入時の諸経費の大幅な値下げなど、市民のマイカー購入条件は相当良くなってきた。とはいえ、庶民が購入可能な車の価格は10万元(150万円)が限度(交通大学調査)とされている。市民の側も現在のところマイカーよりマイホーム購入の要望がかなり高い。日系自動車メーカーの上海駐在員によれば「一人っ子政策の中国では市民の所得水準もう少し上がれば、軽自動車の普及も有り得る」とのこと。また、「価格やデザインで市民の需要に見合った車が登場すれば5〜6年後にはモータリゼーションの到来があるかもしれない」と中国マイカー時代の幕開けを予測した。ただし、上海でマイカーを所有しても、駐車スペースの確保が難しい。道路の拡幅などマイカー時代の前提となるインフラ整備の遅れが気になるところだ。