| 前号に引き続き、上海において唯一正式認可を受けた日本人弁護士事務所首席代表塚本宏明氏の講演の内容(後編)を報告する。
2.撤退の方法
〜解散・清算だけが撤退ではない〜
撤退に関する相談では、「合弁会社の継続が困難なので解散の方法を教えてほしい」というものが多く、これに対しては「早々に解散を考えずに他の方法もあります」と答えています。解散・清算には6カ月程度の時間が必要なうえ、債権者に対する弁済のために資産を売却する必要があります。中国は日本と違い不動産市場、中古設備市場が未発達であるため、資産である工場・建物・設備がどれほどのお金になるかは非常に心もとないところです。土地使用権の売却も同様です。こういう点から解散・清算はかなりの難点を伴っています。解散以外の方法としては、1.組織変更して会社の経営を円滑にする2.持ち分を他に譲渡する−方法があります。3.の出資持分譲渡は第三者に譲渡するもので、会社は引き継がれるため労働契約の終了に伴う経済補償金の支払義務がなく、譲渡額が出資額を多少下まわっても第三者に譲渡できれば非常に有利な撤退方法になります。撤退に関しては、解散・清算の方法は他に手段がない場合にとる方法だと思います。
〜日本側の経営権の確立〜
重要なのは、合弁会社の経営が成り立たない原因を掴むことです。例えば、現地調達の原材料では品質が悪く他国からの調達では赤字になる場合や、企業が構造的に採算が合わない場合には、誰が経営をしても成り立たないため、解散・清算しか方法はないのです。しかし、中国側との経営方針の対立であれば、中国側の経営干渉を排除し、日本側の経営権を確立するという方法もあります。日本側で経営を完全にコントロールできれば、それまでの経営不振の原因を除去できます。このような方法としては、中国側の持ち分を買い取る、つまり合弁から独資への変更です。この他、合弁から合作への企業組織の変更もあります。
合作会社への組織変更は、合弁会社が基本的には出資持分比率を基準にして経営をしていくのに対し、出資持分による拘束を排除してお互いの約束により運営するという契約型結合にもっていく点が特徴です。場合によっては、一定の利益を中国側に与える約束をして、経営は日本側で全部行うという方法もあります。日本側の経営方針で採算が成り立つ判断があればこのような方法も十分に考えられ実例もあります。
〜出資持分譲渡の方法〜
出資持分譲渡型では、最近は台湾や香港の企業が新たに設立する手間を省くために、免許されたポジションだけを買いたいというものがあります。いわゆる免許買いです。出資持分譲渡に関しては『外国投資家投資企業の出資持分権変更に関する若干の規程』によって行われます。具体的な手続きは、1.譲渡先との譲渡協議2.他の合弁当事者に対する持ち分譲渡の申し出(合弁の場合、他の合弁当事者の優先購入権)3.董事会の譲渡承認決議C審査認可機関への申請4.審査認可機関の審査・承認(申請受理日から30日)5.審査認可機関に対する「外商投資企業認可証書」変更申請(認可日から30日)6.工商行政管理局への変更登記申請(外商投資企業認可証書変更認可から30日)−の順序で進んでいきます。
出資持分譲渡のポイントは、合弁会社では中国側当事者の同意と審査機関の認可が必要なほか、中国側当事者には日本側の持分譲渡の優先購入権があります。このため、中国側当事者の同意が得られないため日本側が他の企業に持分譲渡を行おうとしてもできない状況が生じます。また、同意もせずに優先購入権も行使しないということも起こります。この場合、中国の『会社法』第35条を準用し、他の合弁当事者が優先購入権行使を意思表示したときは必ず購入しなければならず、この場合に購入しなくても同意したものとみなすと考えることができます。ただし、これは理論上の処理で現実に認可機関へ持分譲渡の認可申請時には同意書がなければ認可されません。このため、このような場合には仲裁や訴訟を提起するという手続きをとるほかはありません。
出資持分の譲渡価格では、他の合弁当事者が中国の国有資産を出資している場合に、その価格については原則として国有資産評価機構の評価を受け、国有資産管理局の価格確認を経ることが必要です。確定価格を大幅に下回るような、中国側に不利な価格は認めてはくれないでしょう。
出資持分譲渡の制約は、日本側から中国側に譲る場合に外資持ち分が25%以下になる譲渡はできませんが、全部中国側に買わせて内資独資化することは可能です。このときには、相手側の資金力の有無が問題になる他、重要なことは内資会社への切替えにより外貨借り入れが継続できないことが起こるため、これをどう処理するかという問題も生じます。
これが面倒で処理に困るので、内資独資化するときに外資借り入れがあるときは面倒だということは頭に置いておいてください。具体的に問題が生じた場合には、経験のある方に相談されることをお勧めします。
〜合弁会社から合作会社への組織変更〜
合弁会社から合作会社への組織変更では法律上の規定はありません。実際には合弁会社と合作会社の認可を同一機関で行っているため、そこに認可申請します。
合作会社化の問題は中国側の投資優先回収の問題です。合作企業において外資が投資を優先回収していくことができるという『中外合作経営企業法』(以下「合作法」)の規定はありますが、中国側優先回収には規定がありません。また、優先回収の方法として外資側の優先回収のときに、会社を閉鎖するときに債務超過となっている場合、外資側の有限責任がどうなるかの問題があります。合作法上は法規あるいは契約で定めたところにするということになっています。今のところこの点に関しての細かい規定はなく、合作会社で外資側が優先回収をした場合に有限責任性が失われ、合作当事者がある種の無限責任を負うという可能性がないとは言えません。
合作会社への組織変更を協議する際には回収条件の明確化は必須です。期間、方法、どれだけの優先回収かということを変更協議上、明確にしておくことです。また、企業解散時の債務超過の場合に、優先回収をした側に対してどういう責任を負わせるかも考えておく必要があります。さらに、残余財産分配条項について外資側優先回収の場合は、残余固定財産を全部中国側に無償で交付しますが、中国側優先回収の場合には規定がありませんので、その残余財産についてどうするのかという点も明確にすべきです。
3.解散・清算
〜解散・清算をスムーズに行うには〜
合弁会社の解散は通常董事会の全員一致で解散決議がされ、審査認可機関の解散認可を経て清算となりますが、解散決議が董事会の全員一致では同意が得られない場合があります。このため合弁契約の中で解散条項の工夫が必要となります。例えば『相手方が解散に同意しない場合はこちらの出資持分を買取らないかぎり、解散主張側に賛成しなければならない』とする例もあります。いわゆる解散同意義務です。さらに、合弁契約条項で具体的な指標をつけておくことも重要です。最近の例では、赤字累積額が投資額と同額になったとき、3年経過後に2年間連続して赤字が出たとき等の客観的な指標によって解散事由を明確にしています。これは解散に同意しない場合に仲裁機関が解散の条件に該当するか否かを判断しやすくする工夫でもあります。
〜解散・清算にはコストの見積もりを〜
解散・清算に関しては、これに伴ってどのような費用が発生するかを考えておくことが必要です。このようなコストとしては、先ず労働契約の終了に伴う経済補償があります。経済補償は一種の法定退職金と考えられ、原則として1年の勤続につき1カ月分の給与を支払うことになっています。
この他のコストとして考えておくべきものは、設立後10年以内の解散の場合に、所得税の二免三減(黒字計上後の最初の2年間は免税、続く3年は半減)の優遇措置により免除されていた減税分の追加納税です。さらに、輸入優遇措置による免税で中国に運んだ物がある場合、例えば設備を免税で輸入した場合には、5年間の税関の管理監督期間内に処分すれば関税追納をされることがあります。もっとも、輸入免税枠を持っている他の合弁企業に譲渡すれば関税の追納はありません。このように解散・清算には通常より想定外のコストがかかりますので、事前に十分なコストの見積もりが必要です。
4.労働問題のトラブル防止法
〜労働慣行の違いを把握する〜
労務管理での注意点は、日本と中国の労働法制・慣行が異なることです。日本の労働慣行の押しつけはトラブルを招き、中国の労働慣行で労務管理をすれば別の面で問題が出てくるので、両者の調和を図ることがポイントです。
労働契約の作成は、中国では必ず書面によることが必要で、これを作成しなければ罰金が課せられます。労務管理上重要なのは就業規則の作成ですが、日本の本社と全く異なる就業規則を作ると、日本の担当者が労務管理をする場合に非常に困ります。このため、日本での就業規則をベースにして中国の労働法制・慣行に合わせて修正することをお勧めします。そして、従業員に対して就業規則を説明しておくことが必要です。
運用面では、管理側が就業規則の運用を恣意的に行わないことです。日本では従業員の扱いに多少の差があってもそれほど大きな問題にならないことが多いのですが、中国では問題とされることがあります。例えば給与差について管理側は、なぜ差が生じているのか適切な説明をできるようにしておく必要があります。また、賞罰の問題でも明確に説明する必要があります。
賃金に関して、日本の賃金体系は最近変化があるものの基本的には年功序列型賃金制度です。しかし、中国人は、現在の給与が非常に大切と考えるようです。中国人に聞いたことを集約すると、中国では企業が組織的に個人を庇護してくれるとは考えず、いつ裏切られるか分からないという感覚が強く、このため3年先に給与額が上がると言われても信用できないということのようです。日本型の年功序列型賃金制度を中国の従業員が理解すれば問題ありませんが現時点では難しいようです。
〜海外研修後の退職防止と秘密保持の方法〜
中国人を日本の本社で研修させたものの、帰国後に退職し給与の高い企業へ転職するケースがあります。日本では海外研修の後、何年かは退職できないとする労使間の契約は労働法上、一部の例外を除いては効力がありません。しかし、中国では、このような労使間の契約は有効で、それでも退職した場合には海外研修費の返還を求めることができます。ただし、常に全額返還は可能ではなくバランスがあり、通常は5年間の低減方式をとります。例えば研修費が100万円の場合、返還額を帰国後1年勤続ごとに20%ずつ減額し、5年で返還額が無くなるものです。この方式は、上海の労働部の指導も同様で、これが返還されないときは労働契約の解除を拒むことも可能です。中国は二重雇用禁止のため、元の職場との契約解除がなければ次の労働契約締結はできず、従業員は転職できないということになります。
秘密保持に関しては、会社の秘密にかかる業務に従事していた従業員の競争会社への転職を制限したいときがあります。中国ではこれを一定範囲で認めています。例えば、退職後3年間は競争企業への就職や、競争となる自営業開設の禁止を契約条項に入れることです。また、違反されたときの損害額の算定が困難なので、違約金の条項をつけることも可能です。また、通常、従業員は退職の1カ月前に通知をすればよいのですが、「秘密保持義務を負っているときには6カ月前に退職の通知が必要」としたり、労働契約期間満了による労働契約満了の場合にはその6カ月前に担当職務を変えるようにすることも、労働契約で定めることができます。
(大江橋法律事務所(上海事務所首席代表)弁護士 塚本 宏明 氏) |